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放課後の廊下は沢山の生徒達で賑わっていた。
俺は憂鬱なのに……。
無意味に騒いでいる生徒達に苛立ちを覚える。
階段を上がろうと、廊下を曲がろうとしたその時、向かい側から1人の女子が歩いてきた。
俺はその女子の姿に目が奪われ、自然と足が止まる。
制服に包まれた細い身体、雪のように白い肌にキレイな長い黒髪。造られたように整った顔。
周りの生徒達が一瞬で景色に変わる。
1ヶ月前、5組に転校してきた女子。石部圭子だった。
石部の大きくて黒い瞳が俺に向けられた。目が合い、時が止まったような気がする。
ただ目が合っただけなのに妙に緊張した。鼓動が速くなっているのが自分でもよく分かる。
石部は冷たい目で俺を一瞥すると、廊下を曲がって去っていった。
一瞬、石部がさり際に、俺を見て笑ったように見えた。
しかし、すぐに気のせいだと納得する。俺は石部とは一言も話したことがない。
もっとも、石部が誰かと話しているところすら見たことないが……。
学校一可愛いと有名だが、誰に対しても平等に冷たく、いつも一人でいる。それが石部圭子だ。
自分でもよく分からないけど、俺はその石部圭子の事が気になっていた。
ただ、こうやって廊下で見かけると目を奪われる、その程度だけど。
俺は気を取り直して職員室に向かって歩き出した。
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