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「……異世界の勇者が召還されたようだな」
空に並ぶ月の光すらも届かない、闇。
その暗澹たる世界に、けだるそうな声が響く。
その姿は、闇に隠されて見ることはできない。
しかし、誰しもが震え上がる威圧感は、声だけでも容易に伝わった。
「我が偉大なる魔王、アフロディーテ・ファイナルソードブレイカー様、ご安心下さいませ。異世界の勇者など、このネイソンめに任せて頂ければ、たちどころに殲滅してみせましょう」
答えるは、涼やかな男性の声。
まるで水を打ったような、冷たい声だった。
「アハハハッ! 面白いじゃない? 私に行かせなさいよ、絶対に首取ってやるからさ」
「ロクナ! 魔王様に対して口の聞き方が……」
「構わん。話し方などどうでもいい。結果さえ出せればよいのだ。ロクナはミツヤシティ戦で大きな働きをしてくれた。今回は、別の者に手柄を譲ってやってくれ」
「はいはい、仕方ないわね」
憮然とした様子で返事を返すのは、この場に似つかわしくない、鈴の鳴るような明るい声。
しかしその裏には、殺戮を楽しむ残忍さがあった。
「さて、誰に行かせようか。イール、カナタ、ゴリアテ……よし、今日はお前だ」
不意に、闇の一部に光の柱が立つ。
そこに立っていたのは、細身の体に切れ長の瞳が特徴的な、人間の男の姿をした悪魔だった。
「頼んだぞ……キジマ」
「はっ! お任せあれ!」
嬉々とした響きが、闇を揺らす。
次の瞬間には、キジマの姿は無くなっていた。
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