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「……にしても、まだこんな寂れた所に住んでるのか、バカ弟子」
明かりをつけ、部屋の全体が見渡せるようになってから、師匠は呆れたように言った。
「何処に住もうが俺の勝手だろ?いちいち細かいんだよ、あんたは」
「たった一人の弟子を思っての発言に、もっとマシな返しはないのか、お前は」
「思ってたとしても、あんたの場合は悪意が八割、哀れみが二割だろ。まともに相手してられっか」
それもそうだな、と発言を一転させくつくつ笑う師匠。ソファーに座り、足を組んで背もたれに凭れかかった。
シグも嘆息をつきながらではあるが、そこら辺に無造作に散らばっていた瓶を拾い上げ、コップ二つに注いでから向かいのソファーにゆっくりと腰をおろす。
シグがコップの一つを師匠に渡すと、彼女はまじまじと注がれた液体を眺め、「酒じゃないのか」と憎たらしく口を開いた。
「黙れ酒女」
が、シグのこの一言で渋々、師匠はコップの中身を口にした。
「…………」
「…………」
しばらく続いた無言の空間。
コップを置く音、或いは今だに何の飲み物か不明なモノを嚥下する時の音しか続かなかった頃、シグはタバコをくわえ、前触れなく、言う。
「……で、なんであんたはここにいるんだ?」
師匠のどこか満たされた表情が僅かに崩れた。
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