プロローグ

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「どういうことだ貴様!跡を継ぐ気がないというのは!」 とある屋敷の一室。 気品と高級感溢れる家具と本に囲まれた部屋に、野太い怒号が響き渡った。 部屋にいるのは二人。一人は今声を荒げた壮年の男。もう一人は若い、まだ十五にも満たない少年だった。 「どういうことって、そのままの意味だよ父さん。俺はこの家を継ぐ気はない。理解できるよね?」 黒のコートを羽織った少年は鋭い目つきで目の前の男、父親にそう言った。 「そんな事を訊いているんじゃない!どうして継がないのか、それを訊いているんだ!」 父親は机からバンッと大きな音を立てて身を乗り出した。 少年はそれに身動ぎすることなく、淡々と口を開いた。 「そんな事も分からないの?俺はただ、あんたの操り人形になるのが嫌になった、それだけのことだよ」 「ふざけるな!たかがそんな理由で逃げられてたまるか!」 「あんたにとってはそんな理由だろうけどな、俺にとっては死んだ方がマシなくらいの理由なんだよ」 「馬鹿にするのも大概にしろ!貴様に意志なんてあってたまるか!貴様は、私の言う通りにしてればいいんだよ!」 「それが嫌なんだよ。俺の心が分かんないなら話し合いは終わりだ。もう帰ってくることはない」 少年はコートを翻して振り返り、小さく何かを唱えた。 「ま、待てシグ!話はまだ」 父親が言い終わらないうちにシグは消え、後には父親一人、残されただけだった。
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