~東京~

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「で、いつくらぃに?」 「……今、きっと血眼になって証拠集めしとるだろ。 ま、いくらかは持ってかれても仕方ない」 「確か新宿や都心部に ぎょうさん店構えてはりますよね?」 「あぁ。景気悪い中でもじりじり稼いどるわい」 「さすがやわ!けど、それで何も出てこないのもおかしくなりますし」 「そうなんだよ。そこの兼ね合いが なかなか難しくてな……」 「トラジはん ほんまに難しい顔してますよ?」 眉間に深い皺を寄せたトラジをみて極月が微笑むと 「あ、いやいや悪いな、頭かかえとってな。 つい最近2店舗に調査入ったばかりだし。 店の若いもんが現金持ち逃げしたり おじさん災難続きじゃ」 そう答えると微かに顔をしかめた。 「いくらやられたんどす?」 「800万。まぁ全国何処に逃げても無駄だからな。 今は行方不明者になってるわい」 「………そうどすか…… 馬鹿な事せな、そんな目にも合わなかったのにな」 トラジは金に無茶苦茶厳しい人だ。 きっと東京湾にでも沈められたんだろう。 可哀想に。 極月にとっては優しいおじさん、トラジも やはり極道の人間だった。 これまでも店の研修生や委託員で裏切った者には それなりの落とし前をつけさせて他の若い者の見せしめにしてきた。 金に目が眩み大事な命を落とした若者たちを そっと心で偲んだ。
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