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「ずぶ濡れじゃないっすか…」 突然後ろから低い男の人の声がした。 振り返ると、背の高くて人懐っこい笑顔の人が立っていた。 「…あ…すみません…」 「風邪ひきますよ?だいじょぶですか?」 ちょこっと首を傾げて、どこかイントネーションが違う。 「このマンションの方ですか?」 はいと言いたい… 「…いいえ…すみません…」 住んでもいないマンションの前で、雨に濡れて立ち尽くす私を、きっとこの人は頭がおかしいと思ったに違いない。 「家は?送りましょうか?」 家はない…本当の事を言えば、また頭がおかしいと思われそうで、彼の質問には答えなかった。
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