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「足? 捻ったの?」 またさっきの声が、私の後ろから聞こえた。 振り返ると、ニコッと笑ったさっきの人が、傘を私に差し向けていた。 「…あっ…」 「走るの早いっすねぇ。久しぶりに全力疾走しましたよ。さぁ、俺の手に掴まって?」 全力疾走したわりに、少しも呼吸が乱れてないこの人は、大きな手を私に差し出してくれた。 「遠慮しなくていいっすよ?車が来る前に。ほら、立てる?」 唖然としている私の腕を、彼の大きくて温かい左手が、しっかりと支えて立たせてくれた。 「あ…いた…」 「痛い? 腫れてくるかな?」 彼はそう言うと、私の鞄を持って背中を向けた。 「あっ…えっ!?」 戸惑う私に、ちょっと振り向いて彼は言った。 「歩けないでしょ? おんぶしてあげる。早く乗って?」 おんぶ!? 大の大人が…おんぶ!?
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