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「見てあの人よ」
「あぁあれか…」
「怖いわね…」
「綺麗な顔してるがあれで…」
『化け物か』
見渡す限り白い壁
白い廊下
白い服…
ここは機密を重視する隔離された施設『研究所』
『軍』『政府』と共に世界の三大組織と呼ばれるその中で、”優秀”と認められた者だけが集う言わば『エリート集団』を意味する。
彼等は日々様々な研究に励み、新たな力を作り上げては世に送り出している。
その内容は個人により様々だが、ほぼ過半数を占めるのはやはり武器だ。
研究所は軍の定めた最低限の範囲内で機械を使用し、この荒れた世界を生き抜くための力を生み出している。
そしてその、静かな所内。
そこに、彼の姿はあった。
白衣を纏った知的な面々…廊下を擦れ違う者達は口々に言う。
全ての視線を一身に浴びる当人は、感情のない冷めた瞳で白い廊下を一人歩いていた。
彼はもう、
白衣を着ていない。
数日前までは彼も同じ白い衣に身を包み、この廊下を颯爽と歩いていたというのに…。
歩く度に揺れる美しい白銀の髪と、深い海底の紺碧を思わせる見事な碧眼、日に晒されていない透き通るような白い肌、しなやかな身体付きと、女のように麗しく整った顔立ち…全てをかねそろえた究極の美少年とは、まさしく彼の事を指している。
誰もが振り向く美貌。だが…
彼は誰もが非難する、異端の存在だった。
「これが最初の支給物です、どうぞ」
手渡された物は、粗雑な紙袋。
彼は目を細め、怪訝そうな面持ちでそれを受け取った。だが手渡した女の方は顔の限り頬を緩ませ、満面の笑みでこちらを見つめている。
「…何ですか」
そう問掛ける言葉にも、つい怪訝な態度が出てしまう。だが彼女はそれでも尚穏やかな笑顔を保っていた。
「綺麗な子だなと思って」
「……」
”…どうせ異形の姿を面白がって見てるんだろう”
そんな卑屈な思考が頭をよぎる。
どんなに綺麗だと言われようと、彼にとってそれは自分を貶める蔑みの言葉に他ならない。
この身体に流れているものは、異形の血…
彼は、魔物の血を継いでいた。
その事実が知れ渡ってしまったからこそ、彼は今ここに居る。これまで、あんなにも安全で真っ白な世界に生きていた彼が、今は正反対の…危険で死臭漂う真っ黒な世界に立っているのだ。
紙袋を見下ろせば、中には薄茶色の衣が見える。
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