第一章:吉良飛駕[キラアスカ]

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目の前の女もそう、同じ色の衣装を纏い、微笑みながらもその姿勢は堅く凛とした装いを見せている。彼が手にしている物とはまた違った重厚なその衣装は『指揮をとる者』を表していた。 そう、彼女は軍人だ。それも位の高い指揮官だろう。それは部屋の内部を取り囲む、武装した護衛官達を見れば一目瞭然だ。 半月前、彼は研究所を追い出された。そして今ここは望んでもいない場所、軍だ。 魔物の血を持つ事に苦悩し、人間界から見放される事を恐れた彼が行き着いた先、それが研究所だった。 優秀な地位を勝ち取りいつか自分を認めさせてやる。それが彼の切実な想いだったのだ。 そして彼は必死に努力した。若くして研究所に入る事は並大抵の頭脳では成し得ない。だが彼は、わずか十二歳にしてその道を勝ち取った。大人でも苦戦する厳しい試験を、見事乗り越えてみせたのだ。 だがその結果がこれだ。 その地位を保ち続けた六年は何だったのか…魔物の父を持つ、その事実が知れた途端、周囲の態度はがらりと一変した。 「貴方はとても優秀な人材だったと聞いています」 その通り、彼は優秀だった。自分自身を認めさせるために優秀でなければならなかったのだ。 そんな彼にとって、軍に異動となったこの始末は屈辱以外の何物でもなかった。 「貴方のその力、軍でも存分に活かして下さい。期待しています」 期待…一体なにを?人間にはない、特別な何かでも期待しているのだろうか。 期待を託される覚えはない。生憎、特別な能力などは持ち合わせていないのだ。 ただこの血が呪われている、それだけだ。 「吉良君…自分を殺してはいけません。貴方はここで変わる…新しい心を、見つけるでしょう」 「…新しい心?」
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