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彼が眉を寄せ聞き返すのも気に留めず、目の前の女性士官はただ優しく微笑んだ。だがそんな詩的な言葉を並べたところで…今の彼に感動などは生まれない。
人間らしい感情なんてそんなもの、もうとっくに捨てた。
あの白い廊下を去った時、白衣と共に全てを脱ぎ捨てた。
…いや、それ以前…大切な物を失ったあの日以来、彼はこの世の全てを否定した。
だが彼女は、優しさの中に堅い強さを秘めた眼差しでじっと彼を見据えている。
…これが軍か。
”どうせ研究所の連中は俺があっという間に死ぬとでも思ってるんだろう…望むところだ”
彼の中に、悲しみとは言い難い…憎しみという感情が目覚めた。
「吉良 飛駕君。私達は貴方を、心より歓迎します」
歓迎。
その言葉はもう二度と聞く事などないと思った。
そして、もう二度と捨てられるのは御免だ。
差し出された指揮官の右手を、彼はきつく握り返しこう告げた。
「必ず」
”俺はここで生き延びてやる。そしてこの手で魔物[やつら]を…”
「活躍してみせます」
”皆殺しにしてやる…”
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