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丑の刻、人の足途絶えた森は、僅かな霧と暗闇に包まれて風一つ吹かない。
辺りの静けさは幽霊でも出そうな程不気味だった。
「まっこと、…無様よの…」
そんな森の中、沈黙を裂くように声がした。
声の主は妖の類である、妖狐だった。
何があったのか、土の上に横たわる妖狐の周りは血で濡れていた。
そして妖狐自身、大怪我をしているらしく身体を大量の血で染め上げていた。
助けてくれる妖など居る筈もなく、身体から力が抜けていくのを感じているしかなかった。
暗闇の中、妖狐に近付く一つの音が聞こえた。
森に生える葉や草の擦れる音だ。
妖狐は狐耳をピクリと動かし
音のする方に視線を向けた。
そして息を殺して音を立てている主が現れるのを待った。
「妖か…」
現れたのは小さな妖怪だった
弱った妖狐の血肉を狙って現れたのだろう。
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