lovers 温

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「…明日はこっちの世界じゃ水曜日だ。 カズ、そういうことだよ。 元々、存在しない世界なんだから。 カズが、今そのまんまの歳格好でここに来るようになったってのも、そういう意味合いがあったんだと思うよ」 諭すように温さんが言って、 それでもなんだかスッキリしなかった。 「…っておまえの彼氏も言ってんじゃん。 …あー…今日は久々暴れた。 暴れすぎて寝れない。 あ、そだ柊、最後にこれ読めよ」 おもむろに渡された物の角…が、 頭にコツンとあたる。 あの絵本…。 「…それ…なに?」 温さんが少し体を起こす。 「…なんでもいーだろ。 柊と俺のヒミツ」 「…ちょっと…もう意地悪しないの。 ただの絵本だよ…。 室君、小さい頃お母さんに絵本読んでもらったことがないって言うから…」 ベッドヘッドのスモールライトだけ付け、 パラパラと本をめくる。 「…ふうん。 …俺もそういう経験ない。 カズ、読んでよ」 「…なんでホストってこうも強引なのかな… おまえのお涙ちょーだいと、 俺のは違うから」 「…ふん…総司だって似たような話でカズの気惹こうとしたんじゃね?」 「…バッ…誰がこんなブス」 「うっせ、俺の女ブス呼ばわりすんな」 子供みたいな言い合いが始まって、 私は呆れてため息をついた。 「…どっちも私からしたら一緒だよ…。 …それと室くん、お褒めの言葉ありがとう」 バンッと一旦絵本を閉じ、 シン…としたところでまた開く。 「…じゃあ…読むね」 ありきたりな、ストーリ。 でも、小さな私の心に いつまでも残った。 …いつか私にも、 世界でたった一匹、 いや、 たった1人… が表れる日がくるって。
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