lovers 温

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コートも無し、 の格好だから、 雪の白さと冬の星が残酷なほど冷たい。 『室』 と書かれた表札を見上げて、 ため息をついて、 温さんを、見た。 私の右手を包んでいる手の先にいる人。 私には不相応なくらい、 若くて美しくて…穏やか、な青年。 「…心残りでも?」 温さんが静かにそうに訊く。 「…う、ううん。 私はいいけど、温さんはあんな形で総司と最後で良かったのかなって…。 ほらさ、室君髪はまんまだけど、中身はまともになっちゃったみたいだし…これが最後かなと」 「…いいよ。 奴とは友達だった訳でもない。 ましてや過去の、だし」 …それはそうだけど… 私の心に小さくしこりみたいに くっついてるのは… 俗にいう未練…ってやつなのか? 「そ、そうだよねっ。 私もなんかスッキリしたなぁー」 やたら明るい声が気持ち悪い…。 温さんはそれには反応しないで、 「…どっちに帰りたい?」 って訊いた。 「…え、どっちって?」 「過去のカズの実家か…、 過去の俺のマンションか。 あの頃もうあそこに住んでたし、 変わってるとしたら部屋のレイアウトぐらいかな…」 「…私…は、これがあるみたいだから、実家に戻るかな」 室家の門前、 私のスクーター…。 「…置いてけば? 律儀に実家に戻す必要はない。 現実の世界じゃないんだし」 …それも…そうだ…けど… 温さんとつないでいる手だけが あったかくて… 空気は頬が切れるように 冷たくて… わからなくなる。 私は誰を…必要としてるか。
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