lovers 温

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柔らかいセーターと、 温さんの呼吸… それに包まれたまま気づけばベッドの上。 両手をつないで私を見下ろす温さんの髪から、 総司の家のシャンプーの匂い。 「…弱味につけこむ気はないよ」 温さんはそう言って、 私のおでこにキスをした。 脱力したように隣に寝て、 同じように天井を見つめる。 「あいつのこと…あの世界のこと…頭に残ってるんでしょ? 俺もしばらくはそんな感情…だったから目を見たらわかるよ。 今カズを抱くのは良くない」 好きだったんでしょ…? そんな風に温さんは訊かなかった。 「…いや、でもあれはいわば現実じゃないし」 否定するみたいに短く笑う。 「…じゃ、抱いてもいい?」 温さんがガバッと起き上がって、 顔がひきつる。 「そ、それはまだ二人の関係上早いっていうか…そのっ…」 「…嘘だよ。 カズからかうのおもしろい」 ニヤッと笑った温さんが、 体を戻して、しばらくクスクス… セーターの柔軟剤の匂いがこみあげる。 温さんはそっと片手だけつなぐと、 「…大事にするよ」 って、言った。
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