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「みっちゃん、佐渡はな、昔は悪い人を殺す場所だっただのんし」
祖母は幼い私に、平気でそういうことを言った。
「殺した人は川に流されてな、その死体目当てに熊が山から下りてきては、水でふやけた手をくわえて持って行くんじゃ。天狗杉の根元にもよく手足が落ちてたって話だで。みっちゃんも悪いことすっと天狗杉に魂つるされるてや」
私は天狗堂を囲む杉の木を思い浮かべた。
あそこに水死体がごろりと落ちているところを想像した。
それを熊がチューチューくわえているところを想像した。
幼い私にとっては、本当に怖い話である。
「天狗さまはいたずら好きやけぇ、とった魂はこの世とあの世の間で捨てられるそうら」
「死んじゃうってこと?」
「んーね。生きてもいられず、死んでも死ねないちゅうことだてや。三途の川の途中で立ち往生や。みっちゃん、わかるかえ?」
鳥肌が立った。
気が付くと私は大声で泣いていた。
祖母がびっくりした顔をしていたが、それでも私は泣き続けた。
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