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背負ったら背負ったら煩いので、無理矢理抱きかかえる。スタンス的には、お姫様抱っこ。明らかに長時間向けじゃない。
「かかか和君!?」
「ん?どうした」
予想以上の動揺っぷりに、俺は密かに驚いた。
「これって、このままゴールインパターンだよね!?」
ドスン!
やたら痛々しい音がした。まるで、人が落下したようなそんな音。
いや、まあ、俺が手を離したんだけど。
「いきなり何するの、和君」
「せっかく俺が運んでやろうと思ったのに、気が変わった。自分で歩け」
地面にペタリと座り込んで、上目遣いに抗議する日和。
だが生憎と、その手は効かない。
「行くぞ」
「私たち、付き合ってるのに……」
ぼそり。そう言う日和は、本当に悲しそうだった。
飴細工のように、脆く、繊細。それが、日和の本質なのかもしれない。今まで見る事のなかった、隠された本質なのかもしれない。
「ほら」
俺は、日和に背を向けしゃがむ。
なんとなくデジャヴを覚えるが、そんなものは関係ない。
「えへへー、和くーん」
俺の背中に乗っかった途端、甘ったるい声が俺の耳朶を震わせた。
嬉しいのがよく分かる。
こんな事になるまで、俺は日和の事を、少し屈折したやつだと思っていたが、案外素直なのかもしれない。
その素直さが、やけに気恥ずかしかった。
とりあえず日和を負ぶって、人を探す。或いは、街を。
でも正直、どっちに進めばいいか分からなかったりする。
地図も無ければGPSも無い。というか使えない。
使えるのは己の足のみ。笑えない。
江戸時代の人だって、地図くらいあったろう。
深過ぎて人が寄り付かない森の奥底に放り込まれ、地図も無しにどうやって抜け出せと?
やっべぇ、自称神様に対して殺気湧いてきた。
「和くぅん」
そんな、まるで生産性のない思考は、日和の寝言に破壊される。
なんだこいつ、可愛いところもあるじゃないか。
「もうダメ、食べられないよ」
「もはや、お約束だな」
大方、日和の好きな饅頭の夢でも見ているのだろう。
「ダメ。今日の日和は品切れ」
「食べるってそっちか!」
しかも俺かよ。夢の中ではなかなかの淫獣なのかもしれない。
現実ではどうかって?訊くな。
「……とりあえず、人、人」
背中で悶えている痴女は無視しておく。というか、悶えるな。
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