第二章

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背負ったら背負ったら煩いので、無理矢理抱きかかえる。スタンス的には、お姫様抱っこ。明らかに長時間向けじゃない。 「かかか和君!?」 「ん?どうした」 予想以上の動揺っぷりに、俺は密かに驚いた。 「これって、このままゴールインパターンだよね!?」 ドスン! やたら痛々しい音がした。まるで、人が落下したようなそんな音。 いや、まあ、俺が手を離したんだけど。 「いきなり何するの、和君」 「せっかく俺が運んでやろうと思ったのに、気が変わった。自分で歩け」 地面にペタリと座り込んで、上目遣いに抗議する日和。 だが生憎と、その手は効かない。 「行くぞ」 「私たち、付き合ってるのに……」 ぼそり。そう言う日和は、本当に悲しそうだった。 飴細工のように、脆く、繊細。それが、日和の本質なのかもしれない。今まで見る事のなかった、隠された本質なのかもしれない。 「ほら」 俺は、日和に背を向けしゃがむ。 なんとなくデジャヴを覚えるが、そんなものは関係ない。 「えへへー、和くーん」 俺の背中に乗っかった途端、甘ったるい声が俺の耳朶を震わせた。 嬉しいのがよく分かる。 こんな事になるまで、俺は日和の事を、少し屈折したやつだと思っていたが、案外素直なのかもしれない。 その素直さが、やけに気恥ずかしかった。 とりあえず日和を負ぶって、人を探す。或いは、街を。 でも正直、どっちに進めばいいか分からなかったりする。 地図も無ければGPSも無い。というか使えない。 使えるのは己の足のみ。笑えない。 江戸時代の人だって、地図くらいあったろう。 深過ぎて人が寄り付かない森の奥底に放り込まれ、地図も無しにどうやって抜け出せと? やっべぇ、自称神様に対して殺気湧いてきた。 「和くぅん」 そんな、まるで生産性のない思考は、日和の寝言に破壊される。 なんだこいつ、可愛いところもあるじゃないか。 「もうダメ、食べられないよ」 「もはや、お約束だな」 大方、日和の好きな饅頭の夢でも見ているのだろう。 「ダメ。今日の日和は品切れ」 「食べるってそっちか!」 しかも俺かよ。夢の中ではなかなかの淫獣なのかもしれない。 現実ではどうかって?訊くな。 「……とりあえず、人、人」 背中で悶えている痴女は無視しておく。というか、悶えるな。
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