第二章

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まあ、楔型文字でもインダス文字でもないのだろうが、どうせ読めないのだから、気に病む事でもない。 「とりあえず、どこか落ち着ける場所でも探そうか」 俺の言葉に、異論は無かった。 で――何をするにも金は必要だろうという事で、俺たちは住み込みで働ける場所を探し出した。 ちょっとした料理店で、ちょうどファミレスのような所。 必死に頼み込んで雇ってもらい、今に至る。 日和とアリアはフロア、接客。 俺は厨房、皿洗い。 最初は皿洗いからだと思っていたから、そんなに不遇をかこつ事も、感じる事もない。 むしろ、いきなり包丁(驚いた事に、形状が地球のそれと酷似していた)を握れと言われた方が動揺する。俺、料理出来ないし。 というか、日和に接客が勤まるのだろうか。 うん、物凄く心配。 というのは、どうやら俺の杞憂だったようで。 「ご注文承りました。しばらくお待ちください」 割としっかり働いているようだった。 てっきり、「だるい」とか「疲れた」とか言うと思っていたのだが。 ちゃんとやれているなら、それに越した事はない。 アリアはまあ、心配要らないだろう。出来そうだし。 とか思っていると。 「きゃあぁぁあっ!?す、すいません!今すぐ替えの物をご用意致しますので!」 「って、なにいぃぃぃいっ!?」 もーびっくりだ。 普段、しっかりしてそうな雰囲気なので、思わず声に出して驚いてしまう。 これはあれだろうか。ギャップというやつなのだろうか。 日和が意外に出来るし、アリアは意外に出来ない。 そうか、これがギャップ萌――いや、萌えはしないか。 俺の頭の中のメモ帳に、アリアはドジっ娘と記しておく。 「ではごゆっくり」 その間にも、日和はサクサクと仕事をこなしていく。 なんとなくダルそうに見えるのは、多分俺の気の所為。 あんな事があった為、アリアはあえなく清掃係に就任。 店内の掃除をして、時には客を席まで案内する。 店内を歩き回っているようでいて、その実ウエイトレスの機能を果たしていない。 「お疲れ。今日はもう休みな」 「あ、はい。これが終わったらそうします」 もうそんな時間だったか。 雇い主――兼店長のサイカさんは、皿洗いをしていた俺にそう言った。
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