第一章

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今朝。 起きた俺を待っていたのは、留守電のこのメッセージ。 『和君。生きるのが面倒になったから、死んでくる』 ……オーケー。これは何かのイタズラ電話、略してイタ・電なんだ。 きっと、何かの悪ふざけなんだ。 俺こと二階堂和樹は、そう思った。 思ったのだが。 「ってアイツ!本当に死ぬ気かっ!?」 やっぱり無理だった。 俺を和君なんて呼ぶのは、アイツこと片桐日和――職業、幼なじみ――しかいない。 「綾、ちょっと出掛けてくる!」 妹にそう告げる。 「ちゃんと帰ってきてよねー」 台所の方から、そう聞こえた。 「ちゃんと戻ってくるよ」 だからそう返事をしておく。 流石に、寝間着で外に出るのは憚られるので、さっさと着替えて俺は家を飛び出た。 飛び出たところで考える。時間は?場所は? 目的は――? 何故、留守電なんかいれたのか。 自分の死に際、死に様を見てほしかったから? それとも――助けてほしかったから? そんな自惚れた思考を破棄して、俺は駆け出した。 考えている暇などない。 アイツがもし本気なら、与えられた猶予はそう長くない。 「くそっ……」 一つ悪態を吐き、照りつける太陽の下を俺は往く。 そして――。 やっと見つけた。 時間は、昼前。場所は、俺たちの通う学校。 その屋上。転落防止用の柵を超えた所。生と死の境界線に、日和は立っていた。 爽やかな風が吹き、日和のスカートが捲れ上がる。 日和は、靡く髪と捲れ上がるスカートを抑える。 ――白。 他に色など沢山あるというのに、俺はどうしてもそこに目がいってしまった。 仕方ない事だと思いたい。 「おーい。パンツ見えてるぞー!」 日和に、そう言った。 「知ってる。ついでに、和君が白パン好きだって事も」 いつ教えたよ。 ……まあ、事実ではあるが。 「そう。最期だから。最期だから、和君に堪能してもらおうと思った」 最期。俺は、自分でも不思議なくらいにそう変換出来た。 最後ではなく、最期。 おい、行くな。 「あ、それとも、えっちな事したかった?」 行くな。 行くなよ、日和。 「私は――和君とだったら、構わなかったかな」 だから、行くなってば日和。 日和、日和、日和――。 「日和――!」 力の限り、叫ぶ。 必死に今を繋ぎ留める為に。 「――」 日和の口が、小さく動いた。 何を言っているのかは分からなかった。 小さ過ぎて、聞き取る事が出来なかった。
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