第一章

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だが、日和が「ごめん」と言っている気がした。 いや、気がしたではない。 そう、確信した。 一体日和は、何に謝っているのか。 俺の手を煩わせた(実際は足だが、念の為。言葉のあやである)事にか? それだったら、気にするな。お前が戻ってこれば、許してやるから。 俺を心配させた事か? それも、気にするな。お前が戻ってこれば、全て許してやるから。 それとも、約束を守れない事か――? 昔、約束したじゃないか。 『一生友達』だって。 『ずっと一緒』だって。 確かに、何の拘束力も持たない、幼さ故の口約束だけど、それでも大事な大切な約束だ。 だから――っ! 気付いた時にはもう、日和は浮いていた。 そして、重力に従って降下を始める。 「日和、日和っ!」 絶対に、死なせないっ! 俺は、日和が落ちるであろう地点に駆け寄る。 受け止める。何が何でも、受け止めてみせる。 ……なんて、格好良い事を言ったところで、砲弾と化した日和を受け止める術など、俺には無く。 無様にも身体ごとぶつかり、そのまま意識はブラックアウトした。 気付けば俺は、そこにいた。 何も無い、白の世界。 そこに、日和といた。 起き上がった俺の左で、すやすやと寝音を立てている。 ここがどこだかは分からなかったが、俺たちが“死んだ”事だけは、なんとなく分かった。 「んんっ……。和……君?」 日和が目を覚ましたようだ。 「和……君。ここは?」 辺りをキョロキョロと小動物が見渡すように見回す日和。 「さあな」 これは事実。俺が知っているのは、俺たちがもう死んでいるという事だけ。 「ここは、天国さ……と言いたいところだけど、残念ながらそうじゃない」 突如、声が聞こえた。 発信源は分からない。どこからともなく、どこからでも聞こえたのだ。 「どこにいる?姿を見せやがれ」 ちょっと乱暴に言ってみる。 こういうのは概して、冷静さが欠けたら負けだ。 すると、返事の代わりに、目の前に人型。 最初は小さな光の粒。点描のような姿。 だんだん光が収束して、人を象っていくのだ。 「ハロー。僕は……そうだね、君たちの言うところの神様ってやつかな」 現れたのは、見た目二十代の男。 気になったのはその自称と、先の発言だ。 「おい神様とやら。ここは一体どこなんだ?」 話は俺から切り出す事にした。 「仏教的に言えば、三途の川なんだけど、僕はそっちの存在じゃないからなー」
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