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頓珍漢な事を言って、何やらぶつくさ呟いている自称神様。
「とりあえず」
はっきりと、声を張り上げた訳ではないが、自称神様をこちらに向かせるだけの効果はあった。
「俺たちは死にかけてる、って事でいいんだな?」
これは最終確認。
「身も蓋もない言い方をすればね」
自称神様は、皮肉な肯定を返す。
「君たちはまだ十代だ。未練もたらたらだろう。若い男女が閨の一つや二つも共にしないのでは、死にたくても死にきれないというやつだろう?」
「んな訳あるかッ!!」
俺が否定したのは、『若い男女が』以降の件(くだり)。
そんな淫乱になってたまるか。
「だから特別に、もう一度チャンスをあげる。もう一度、世界に生きる、チャンスをね」
俺の言葉は、さっぱり聞く耳を持たないようだ。
「もう一度、生きる……か」
実感は湧かない。
というより、死んだ事さえ実感出来ない。
その事が、俺の判断を鈍らせる。
だが。
「和……君」
日和の声がした。
小さな小さな、か細い声。消え入りそうな、弱々しい声。
「私、生きたいっ……」
自殺した人間が何を言うか。
俺のそんな皮肉は、言葉になる前に霧散した。霧散、させられた。
日和が、視界に入ったから。
「生きたいよ……」
日和の、いつもと違う日和の、儚げな表情を見ると、皮肉なぞ言う気にならなくなる。
「日和……」
「だからね」
俺の顔を、目を見て日和は続ける。
「生きる理由になってくれないかな?」
満開のかんばせで、そう言った。
「理由でも何でもなってやる。なってやるから、生きろよ」
良い雰囲気になってきた。そんなところで。
「いちゃつくのは構わないけど、人前では自重しようか」
水を差してくる自称神様。
「お前、人じゃないだろ」
ちょっとムカついたので、そう言っておいた。
「で、生きるでいいんだね?」
再度、確認。
勿論、今の世界ではない事は汲み取れる。
「ああ。そうだ、神様。一つだけ頼み事がある」
「なんだい?」
一つだけ、心残りがあった。
残してきてしまった。
「綾に――妹に、『帰れなくてごめん』って伝えてほしい」
「お安いご用だね」
現世に未練がないと言ったら嘘になるが、未練を抱いても意味が無い。
だから――せめてもの、はなむけだ。
実際に旅立つのは俺たちだが。
あの家に、綾一人を残していくのは気が引けるが、生憎俺たちは帰られない。
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