第一章

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頓珍漢な事を言って、何やらぶつくさ呟いている自称神様。 「とりあえず」 はっきりと、声を張り上げた訳ではないが、自称神様をこちらに向かせるだけの効果はあった。 「俺たちは死にかけてる、って事でいいんだな?」 これは最終確認。 「身も蓋もない言い方をすればね」 自称神様は、皮肉な肯定を返す。 「君たちはまだ十代だ。未練もたらたらだろう。若い男女が閨の一つや二つも共にしないのでは、死にたくても死にきれないというやつだろう?」 「んな訳あるかッ!!」 俺が否定したのは、『若い男女が』以降の件(くだり)。 そんな淫乱になってたまるか。 「だから特別に、もう一度チャンスをあげる。もう一度、世界に生きる、チャンスをね」 俺の言葉は、さっぱり聞く耳を持たないようだ。 「もう一度、生きる……か」 実感は湧かない。 というより、死んだ事さえ実感出来ない。 その事が、俺の判断を鈍らせる。 だが。 「和……君」 日和の声がした。 小さな小さな、か細い声。消え入りそうな、弱々しい声。 「私、生きたいっ……」 自殺した人間が何を言うか。 俺のそんな皮肉は、言葉になる前に霧散した。霧散、させられた。 日和が、視界に入ったから。 「生きたいよ……」 日和の、いつもと違う日和の、儚げな表情を見ると、皮肉なぞ言う気にならなくなる。 「日和……」 「だからね」 俺の顔を、目を見て日和は続ける。 「生きる理由になってくれないかな?」 満開のかんばせで、そう言った。 「理由でも何でもなってやる。なってやるから、生きろよ」 良い雰囲気になってきた。そんなところで。 「いちゃつくのは構わないけど、人前では自重しようか」 水を差してくる自称神様。 「お前、人じゃないだろ」 ちょっとムカついたので、そう言っておいた。 「で、生きるでいいんだね?」 再度、確認。 勿論、今の世界ではない事は汲み取れる。 「ああ。そうだ、神様。一つだけ頼み事がある」 「なんだい?」 一つだけ、心残りがあった。 残してきてしまった。 「綾に――妹に、『帰れなくてごめん』って伝えてほしい」 「お安いご用だね」 現世に未練がないと言ったら嘘になるが、未練を抱いても意味が無い。 だから――せめてもの、はなむけだ。 実際に旅立つのは俺たちだが。 あの家に、綾一人を残していくのは気が引けるが、生憎俺たちは帰られない。
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