第二章

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誰でもいい。 何でもいいから、アレを、“吹き飛ばしてくれ”! 強く、そう願った。 刹那、何かが、吹き荒れた。 日和に今にも襲い掛からんとした獣を吹き飛ばし、木の葉を舞い上がらせる。 ――これは一体……? これが天然の産物でない事は、程度を見れば明白だ。 こんな局地的で突発的な暴風が、自然に起こり得る筈がない。 いや、この際なんでもいい。なんでもいいのだ。 俺は、日和の手を取り、立ち上がらせて、その場から逃げた。 ――早く、街を見つけないと! だがここは樹海。深緑に支配された世界。 そう簡単に、街はおろか、人すら見つけられなかった。 「がぅあぁぁぁぁぁっ!」 膂力の差で、すぐに追い付かれてしまう。 くそっ。 “あっちへ行ってくれ”! まただ。 また、風が吹いて、獣を俺たちから遠ざける。 強く願ったその時に、自然には有り得ない現象が起こった。 これが、偶発的な事なのだろうか。人為的と言われた方が、まだ納得出来る。 そして、この緑の世界に存在する人間は、二人。 賭けてみる価値はありそうだった。 そして俺は、強く願う。 ――“アレを燃やしてくれ”! 瞬間、爆音が炸裂した。 獣が居た地点で。 俺たちは、それを呆然と見ていた。 チリチリと炎が上がり、獣を燃やし尽くす。 炎がすっかり消えた後、俺たちは確認しに行った。 獣は、その形を残したまま焦げており、焼かれた為、死臭はあまり無かった。 「美味しそうだね」 「それはボケか?それとも素なのか?」 「ボケだよ」 なら、そんな分かりにくいボケは止めてもらいたい。 前に一度、ゲテモノを見て、「美味しそう」などとほざいた事があったからだ。 いもむしの一体何が美味そうなのか。 考えるだけで寒気がする。 「とりあえずさ。そこに感想を持つべきじゃない気がするんだ」 「わー、なんでいきなりもえたのかなー」 「棒読みっ!」 ……俺が言いたいのは、この世界では普段俺たちが有り得ないと感じている事が起こり得る、という事。 まさか、魔法とか言わないだろうな。 たった今起きた事は、魔法のイメージそのままなのだが。 此処に居ても埒明かない。 「ほら。背負ってやるから、行くぞ」 「背負ったらいけないよ?」 「出鼻をくじくなって、何度言ったら分かるんだ」
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