五月

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美容学校を出た俺は、四月から「熊野美容室」で修行をさせてもらっている。 母さんの古い知り合いらしい熊さんは、今まで気ままに一人で店を経営していたらしい。 「アンタ卒業したらちょっとヨソでカリスマの技をパクって来なさいよ」 ある日の母さんの一言で、俺はここに放り込まれた。 熊さんは名前の通り、熊みたいなずんぐりおじさんだ。美容師としての腕は母さんがカリスマと呼ぶほど確かなのに、見た目でものすごく損をしている気がする。 「掃除テキトーで帰っていいよ。腹減ったべ?」 閉店時間を過ぎた途端に熊さんのスイッチはオフになったらしい。 「いや、でもまだ店内ぐちゃぐちゃですよ……?」 「いいよ、どうせお前朝も掃除するじゃん」 「ん……、じゃあ帰ります」 「おつかれー」 熊さんのユルイ空気感は俺には合っていると思う。
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