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目の前を、毛糸玉が転がっている。
いや、何故毛糸。どうして毛糸。ここはただの放課後の学校にある廊下の筈で、けして手芸屋ではない。
とりあえず、屈んで毛糸玉を拾い上げる。モフモフのフカフカ。アルパカ80%にアンゴラとウールが配合されていると見た。色は綺麗なインディゴブルー。男性もののセーターにしたら良さげな色味だ。うん。
……何冷静に分析してんだよ、俺……
今の問題は、この毛糸玉がどこから来たかだ。幸い、廊下には経路を示すかのように糸が長々と続いている。巻き取りながらそれを追えば済むな。
っていうか、放課後の校舎でこんなことをしてる俺はひょっとしなくても変人か? 普段からあまり人が近寄ってくれないのに、これじゃますます近寄ってくれなくなるんじゃないか?
毛糸をそのまま放ってはおけないが、ちょっと自分の想像に泣けた。ちょっとだけだ。ちょっとだけ。
さっさと終わらせて帰ろう。うん。これ以上心のダメージがデカくなる前に帰りたい。切実に。
しかしながら、こともあろうに糸は俺のクラスから伸びていて、
しかもクラスにはまだ人がいて、
「広瀬君?」
しかもそれが学校1の才女と謳われる学級委員長で、
マジで泣いていいかな。
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