病室 又は 失われていく記憶

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ぼくは夢の中にいる。 そこは、やはり病室だ。 リクライニングを起こしたベッドにいる陽子が、ぼくにむかって優しく微笑みかける。 ふっくらした唇と、肩まで伸びた黒髪・・・。 「髪、束ねてもらっていいかな」と陽子はピンクのゴムをぼくに渡す。 ぼくは陽子の髪に手を伸ばし、手櫛で梳く。 そのとき、手のひらに何かをつかんだ感触がする。 よく見ると、 手には、一束分の髪の毛がにぎられている。 驚いた陽子が、自分の手を頭にもっていく。 バサッと髪の毛が抜け落ちる。 陽子は、なんとか笑顔を作りながら口を開く。 「こんな風に髪が抜け落ちるのって、テレビの中だけかと思ってた。ごめんね、驚かせちゃって」 ぼくは思わず病室から逃げ出す。 病室からぼくの名前を呼ぶ陽子の声が聞こえる。 ぼくは病室から逃げるように走りだす。 ぼくを呼ぶ声は大きくなる。
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