第一章 分岐点

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……しかし相変わらずだな、こいつ。 何でこう、いつも不機嫌に見えるんだか。 でもまあ、四月の頃と比べると浅倉は少しは丸くなったような気がする。少なくとも授業中では睨まれなくなった。……やっぱりあんまり進歩してねぇ。 口に出すと色々言われそうなので、心の中だけで呟いておくことにする。 「ま、まあ……その、悪いけど今日は新崎先生に呼ばれてんだ」 「さっき聞いてたわよ。まぁ、勝手にすれば良いんじゃない?」 「…………どうしてお前は喧嘩腰にしか物を言えないんだよ……」 ぼそりと小声で毒づく。しかしこれが浅倉には聞こえていたようで、 「ふん、悪かったわね。地味――“城川”のクセに生意気よ」 おぉ、睨んだままで言い直した。いや何で感心してんだ。馬鹿にされてる筈なのに。 ――っと、あんまり皆と長話してる場合じゃないな。もしかしたら新崎先生が待ち詫びているのかもしれない。 「んじゃ、まあ……また今度?」 絶賛喧嘩の特売中の浅倉と、苦笑を浮かべている皆には悪いが、俺はそろそろ行かなくちゃいけない。 別れの挨拶と支度を済ませ、俺は職員室へ向かった。浅倉をスルーしているような気がしなくも無いが、まぁ大丈夫だろう。後が怖いけど。
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