プロローグ

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夏だ。 茹だるような暑さ。絶え間無くやかましい音を奏で続ける蝉共。雲一つ無い澄み切った青空のせいで余計に暑く感じる。いや、だから暑いのか。 「……ふぅ」 額から流れる汗を拭い、嘆息。 体中から溢れ出る汗はTシャツを越え、制服の夏服であるワイシャツを濡らしていた。気持ちが悪い。 そんな俺の気分に反して涼しげに揺れる赤のネクタイ。少し緩めたとは言え、暑いのに大差は無かった。 ホント、寮から学園が近いのがまだ救いだ。遠かったら干からびてた。マジで。 視界先、俺の通う学校――北守召喚師学園の門が見える。それだけではない。何人もの生徒達が吸い込まれていくように、学園への敷地を踏んで行くのも確認できる。 俺は嬉しさを含めて思う。この光景を見るのはしばらく後になりそうだ、と。 その理由は今日が7月19日だからだ。 すなわち、夏休みの前日。学園生活で日々疲労している俺にとって、これはテンションを上げずにどうしろと言うのだ。 ともあれ。 口の中でそう呟き、俺はいつもと同じように踏み込んで行く。去年までは本当に、本当に考えられなかったような場所へと。
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