第一章 分岐点

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例えばだ。 例を上げよう。 たった今、ドスンと軽い地響きと共に、一週間分ぐらいの荷物が入ってそうな感じの鞄――否、凶器を置いた、浅倉凪とか。 「……何か言いたそうね」 「いや大丈夫だ。でっかい鞄にはでっかい夢が詰まっている。俺はそう思うから何も問題はねぇよ」 「うっさいバカ」 罵倒しながらも否定はしない所、自覚はあるらしい。というかあってほしかった。 そんな感じで少し残念な気持ちになったその時、「城川君、少し良いですか?」という聞き覚え声が俺の肩を優しく叩いた。 振り向くとまず目に飛び込んできたのは、藍色の髪の美少女、池永葉月だ。 そこにいるのは彼女だけではない。 委員長である篠沢と……もう一人。 「おはようございます。城川想介……様ですね?」 顔に見覚えがないのは、彼(?)が着ている制服が東宮のものだからだろう。 あと少し失礼だが、この黒髪の少年、かなり中性的な顔立ちをしている。危うく女子と見間違う所だった。制服に感謝せねば。 「そうだけど……俺に何か?」 無難に返すと、生真面目さと優しさが入り混じったような蜂蜜色の瞳に微笑まれる。 「実際に用があるのは僕ではありません。ですが、少しお時間を取らせて頂きたいのは事実です」
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