第一章 分岐点

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「いやぁ、スマンスマン」 案の定、我等が担任――新崎拓朗(しんざきたくろう)が現れたのは、HR開始時間を10分も過ぎた時だった。 後ろの席で良哉が、喜んで良いのか悲しんで良いのか微妙な表情をしているが……まあ放っておいておこう。 「今回は人の心という迷宮に迷いこんでしまってな。それで遅れた訳だ。まあ仕方がない。分かったか城川?」 かなり眠たそうに茶色の目を細めて言う、ジャージ姿の新崎先生。 ちなみに昨日は『不幸という名の渋滞に巻き込まれた』だった。意味が分からん。 というか何で俺に確認を取るんだよ……! 色々ツッコミたい衝動が沸き上がるが、ここは抑えて頷くだけに留める。確認を取られた以上は何か反応しておくべきだし。 そんな俺のリアクションを見てか、新崎先生は溜息をついた(俺か!? 俺が悪いのか!?)。 しかし先生は先生で気持ちを切り替えたらしい。ポリポリと数回ボサボサの頭を掻いた後、 「んじゃあ早速、成績表――」 と、そこで新崎先生の目が、俺達から自分の両手に落ちる。手ぶらだ。持ってる物は何もな……い……? 「………………誰か取りに行ってくれ。職員室のどこかだ」 ……。 結局、俺達B組はHR開始予定時間を更に10分遅れることになった。ちなみに取りに行ったのは委員長。お疲れ様です。
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