プロローグ

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 〇  記紀すみれ(キキスミレ)という幼馴染みを持つぼくにとって、彼女は疎んじるべき対象であり、また相愛の仲であるべき存在だ。  家が隣で記憶に無い頃から一緒に育ったという関係上、成り行きのまま生活能力の著しく欠如した彼女の世話を請け負っているぼくだが、それを幸せだと思ったことは、当然無い。むしろ不幸せだと嘆いたことの方が多い……いや、全てである。  すみれは我が儘だし、文句は多い。  好き嫌いは激しいし、面倒臭がりで何も出来ない。  洗濯物を畳んでくれないし、料理の手伝いも、掃除ですら手伝ってくれない。  着替えだって自分で準備しないし、しないくせにぼくがしないと文句を言う。  本来自らがすべき仕事も、しなければならない物事でさえ、ぼくになすりつけ放り投げる。  文句が多い、何もしない、手伝いもしない、するべきこともしない……そのくせ邪魔だけはしてくる。暇だとか、面白いからだとか、一人でつまらないからだとか、自己中心の利己的思想の元、ぼくの邪魔をする。  小さい時から、何も変わっちゃいない。  怒られてもへらへら笑う。なのに、突拍子もなく泣く。  夜中にゲームを強要する。なのに、ぼくより早く眠る。  いつも煩いくらい明るい。なのに、小さなことでへこむ。  本当、すみれは小さい時から何も変わっていない。髪や身長は伸びて体付きも大人っぽくなって、だけど言動は何も変わっていない。  対してぼくは、ほとんど変わってしまった。髪も身長も体付きも言動も何もかも、大人っぽくなった。昔が霞むくらい、悲しいくらいに。  ぼくは変わった。  彼女は変わらなかった。  変わり、変わらなかった。  ぼくが任せられた健気な彼女。  ぼくの隣でへらへら笑う明るい彼女。  ぼくの手を握ってくれる優しい彼女。  ぼくのために怒って泣いてくれる可愛い彼女。  ぼくを慕ってくれる馬鹿な彼女。  こんなぼくを好いてくれている、愛すべき彼女。  そんな彼女、記紀すみれに如何なる感情を抱くべきなのか、果たしてぼくは分からない。宇宙の真理くらい分からない。  結局ぼくは、この命が尽き果てるその時まですみれの為に尽くすのだろう。  すみれの笑顔が見たいがために。  すみれの笑顔を絶やさないために。  嫌々ながらも、文句を言いながら。  ぼくはすみれのために日々を過ごす。  そして今日も、すみれはぼくの隣にいる。
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