絶望の海

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 夜空に散らばった星群―  その星群が、何万年も前に放った光が海を照らす  月の光が、それに加勢し夜の海が鮮やかに照らされていた  好き勝手に煌めく夜空の下で波が揉み合っている  海を照らす星や月が憎らしい  船は、全ての灯りを消し最大船速で航行を続けている  夜の海に響く巨大な旧式エンジンの雄叫び  赤茶けた船体が、軋み船体が悲鳴を上げている  速く……  もっと速く……  岡田は、巨大な輸送船の甲板の上でそう何度も呟く  二十代後半― 引き締まった筋肉質の身体は、この船に乗ってから常に緊張していた  沈んでしまった“武蔵”に乗っていた時には、こんな感覚に襲われた事はない  むしろ敵の艦隊と遭遇する事を、いつも望んでいた  今は、違う  一秒でも速く、敵に発見されずにこの朽果てる寸前の船が、本土の港に辿り着いてほしかった  眉間に皺を寄せ岡田は、星空を睨んだ  夜風が、磨耗した神経を耐えず揺すってくる  岡田の目に映る夜の海のどこにも、希望などなかった ・
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