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岡田は、少し眠ろうと折れた足を引き摺りながら甲板から船倉に戻った。
船倉の扉を開けると、押さえ付けられた生暖かい空気とともに男達の濃い汗の臭いが岡田の全身に押し寄せる。
暗い船倉の、そこら中から男達の呻く声が聞こえてくる。
数日前にシブヤン海で岡田達の乗っていた“武蔵”が、米軍の航空部隊によって沈没させられた。
艦隊同士の決戦では、世界最強と唱われた武蔵も空からの攻撃には、なすすべもなく沈んだ。
沈没する“武蔵”から命からがら逃げ延び、負傷してしまった兵士達がこの輸送船に乗せられていた。
至宝とされる“武蔵”を失ってしまった今、連合艦隊はもはや壊滅寸前であった。
連合艦隊の壊滅は、この国の敗北に直結する。
近い将来、滅亡する国に帰ってどうなると言うのか……
暗い船倉の中で、岡田の胸に虚しい物が広がって行く。
しかしそれとは、逆にこんな薄汚い船の中で死んで行くのは嫌だとも思う。
“武蔵”と一緒に死ねれば、良かったのだ……
なぜ自分は、あの時― 生き残ってしまったのか……
同郷の吉野も、部下の磯谷もみんな……
武蔵とともに沈んで逝った。
船倉の闇の中に、彼らの顔が浮かぶ。
皆、帝国海軍の正装に身を包み凛々しく前を向いている。
岡田の目から涙が、こぼれ落ちた。
仲間達は皆……
「岡田! 俺達の分まで生きろ! 」
そう叫んでいる。
暗い船倉の中で岡田の目から落ちる涙は、止まる事がなかった。
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