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いつ敵の潜水艦や艦隊に発見されて、この輸送船が沈められてもおかしくない。
じわりじわりとその恐怖が、男達を蝕む。
あまりの恐怖のせいか、自国にもはや明るい未来はないと悟ったせいか男達は、ただただ無気力だった。
不意に船倉の扉が開く。
若い身体中に包帯を巻いた男がそこに立っていた。
暗いせいで、その男の顔は見えない。
男が、奇声を上げる。
「ひいぃぃぃぃ! 」
静まり返る船倉の中に男の声が響く。
「うるせえ! 静かにしやがれ! 」
船倉で横になっていた男達が、次々と若い男に怒声を浴びせかける。
「“武蔵”が…… “武蔵”が…… ついてくるんだ…… 山本長官も乗ってる…… 」
若い男が、つかえながらも必死で言う。
「もうわかったから静かにするんだ! 」
若い男の知り合いと見られる男達が、なだめている。
「本当なんだよ! 山本長官が、不様に生き残った俺達を殺しに来たんだ! 」
若い男は、まだわめいていた。
その声に誰も返事をしようとしない。
若い男は、戦友達になだめられたせいかすぐに静かになった。
暗い船倉にまた重い沈黙が満ちる。
あの若い男は、頭を狂わせてしまったらしい。
数日前に“武蔵”は、沈み―
連合艦隊長官 山本五十六は、一年前に死んでいるのだ。
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