絶望の海

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 暗い船倉にいると日にちの感覚が、なくなってくる。  本土が近づいているのかどうかさえわからない。  なぜこんな事になってしまったのか……?  開戦から半年、大日本帝国は勝利に勝利を重ね、遂に豪州の手前まで迫った。  国中が戦勝ムードに沸き返り活気づく。  知略と才能を合わせ持った山本五十六長官がいて―  不沈艦“武蔵”と“大和”が存在する限り、我が国は、必ず勝利すると誰もが信じて疑わなかった  それが今―  山本長官はラバウルでの戦場視察中に戦死し  不沈艦とされた“武蔵”まで、沈んでしまっている……  我が国の勝利の支柱は、完全に失われた。  それでも尚、大本営は、戦争を継続しようとしている。  どこから狂ってしまったのか……?  もはや大日本帝国と言う国自体が狂気に犯され、民族総自決に向かって突き進んでいるとしか思えない。  この古ぼけた輸送船にもその狂気は蔓延している。  何人もの兵士が、この輸送船の後を“武蔵”がついて来ていると言い出したのだ。  “武蔵”を見たと言う兵士達は、艦橋で指揮をとる白い正装に身を包んだ山本長官の姿があったと口々に言った。  遂にみんな狂ってしまったらしい……  岡田には、うわさの真偽を確かめる気力さえもう残っていなかった。 ・
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