絶望の海

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 不様に生き残った自分達を、山本長官は許さないのだろうか……?  沈んだ筈の“武蔵”が、ついて来ていると聞いた時に岡田は、馬鹿げているとしか思わなかった。  しかし今は、あまりに皆が“武蔵”がついて来ていると言うので もしかしたら本当について来ているのかもしれない…… と思い始めている。  傷ついた男達は皆、もはや正常な判断等、つかなくなっていた。  沈んだ筈の“武蔵”が不様に生き残った我々に主砲を発射する。  数日前まで敵艦との遭遇を恐れていた男達が、今や“武蔵”の影に怯えていた。  震える男達の傍にいると、岡田の心にも恐怖が芽生えてくる。  “武蔵”の主砲弾が掠りでもしたら、こんなオンボロの船はすぐにでも沈んでしまうだろう……  じわりじわりと沈んだ筈の“武蔵”への恐怖が船倉に広がっていく。  「長官…… どうか我々を許して下さい…… 」  そんな声が、船倉のそこら中から聞こえてくる。  暗く― 男達の汗の濃い臭いが立ち込める船倉。  こんな所で死にたくない……  せめて死ぬなら本土の土を、もう一度だけ踏みたかった。  岡田の脳裏に、老いた母の姿が浮かぶ。  その時―  大きく船が揺れた。  「“武蔵”だ! “武蔵”が来た! やっぱり山本長官が俺達を殺しに来たんだ! 」  船倉のそこら中で男達が、そう叫んでいる。  岡田は、足を引き摺りながらも何とか船倉を抜け出した。 ・
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