絶望の海

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 この輸送船が沈没する時に、船倉にいたら命取りだ。  “武蔵”が撃沈した時も内部にいた兵士達は皆、死んでいった。  艦橋に出るしかない。  岡田は、痛む足を引き摺って何とか輸送船の艦橋に出た。  艦橋には、船倉から上がってきた兵士達が殺到している。  夜の闇の中で、月や星の眩い光が海を照らす。  岡田が艦橋に出た直後、輸送船のすぐ傍で水柱が立ち昇る。  舞い上がった海水が艦橋に降り注ぐ。  船は揺れ、兵士達が悲鳴を上げる。  闇の中に蠢く敵船の影。  「駆逐艦だ! 」  兵士達が、口々に叫ぶ。  どうやら米国の駆逐艦に発見され、砲撃を受けているらしい。  輸送船はエンジンが焼き付かんばかりに速度を上げ、駆逐艦から逃れようとしている。  不意に海上が轟音と、ともに光った。  間があって輸送船の僅か後方で水柱が立ち昇る。  敵の駆逐艦は、盛んに砲撃を続けている。  砲弾が、この船に命中するのも時間の問題だ。  輸送船にいる兵士達は皆、腰砕けの状態となっている。  「もう駄目だぁ! 殺られる!」  口々に皆、叫ぶ。  輸送船が、進路を変えようとした時―  まるで小山の様に巨大な影が、輸送船の行く手に現れていた。  岡田は、艦橋の手すりにしがみつきその影を目にした。  これは……  この巨大な影は……  「武蔵だ! やっぱり山本長官が、俺達を殺しに来たんだぁ!」  そう一斉に叫び始める兵士達。  確かにこの巨大な船影は、自分達がよく知る“武蔵”の物だ。  “武蔵”にとどめを刺されるなら本望とさえ岡田は、思った。 ・
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