登下校の苦難

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 「失礼します」  言って中に入る。お邪魔しますという言葉の方が適切な表現な気もしないではないが、ここは家ではなく部室なのでそれは止めた。そしてソファーですやすや眠っている女子生徒が一人。後ろ姿だが、あの綺麗な銀髪は水蓮寺先輩だろう。というかこの人自分から呼んでおいてなんで寝てんだよ。  備品やら蜘蛛の巣やらを掻き分け頑張ってここまで来たんだ。眠ってる所悪いけど起こさなければ何も始まらない。  「あの、水蓮寺先輩、起きてください」  …………。  「せ、先輩っ! 起きてくださいっ!」  …………。  爆睡だった。    ダメだこの人。仕方ない。大変な道程ではあったが、蜘蛛の巣も粗方壊してきたのだから帰りは案外楽かもしれないな。  「それじゃ、失礼しま――」  「待って!」  俺の声を掻き消す程の大声で水蓮寺先輩は俺を引き止めた。正確には大声で驚き、それと同時に制服の袖を掴まれ引き止められた。という感じだ。  「おはようございます。水蓮寺先輩」  俺が微笑して言うと水蓮寺先輩は恥ずかしくなったのか、一瞬にしてぼっと顔が赤くなった。  「せ、先輩をからかうんじゃない」  と、狼狽する水蓮寺先輩。  「そういえばなんで俺は今日呼ばれたんですか?」  これが今日の本題だ。正直水蓮寺先輩に今日呼ばれた事が原因で授業に全くと言っていい程集中できなかった。いや、人のせいにするのは良くない事だってのは分かっているんだが、女子の友達がいない俺が、生徒会長であり、皆が高嶺の花だと思う、つまりミス縦縞高校と言っても過言ではない人物に放課後会う約束をされてみろ。授業に集中できるわけがないだろ。  「そ、そうだったわね。リンジを呼んだのは他でもない。何か悩み事があるんじゃないのかしら? その悩みを解決するためにをあなたを呼んだのよ」  そう言って腕組み仁王立ちになる水蓮寺先輩。先程狼狽した事が悔しかったのか、やけに威厳たっぷりのポーズだ。
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