登下校の苦難

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 真顔で様付けを要求する奴なんて、アニメや映画の世界にしか存在しない幻の生き物じゃないのか? まあ、仮にそれが幻じゃなかったとして俺の目の前にいるとしよう。多分ソイツは家が金持ちで、金はあるけど友達なんていない、寂しーい奴なんだと思う。そしてツンデレに違いない。まあ、それでもやっぱりそんなやつは幻もしくは伝説の生き物に違いない。  よし、とりあえず目を開けよう。  目の前に立っているのは生徒会長にして高嶺の花、水蓮寺梓先輩。  「あ、あの、なんて呼べば……」  「聞いてなかったの? 水蓮寺先輩様……でもこれじゃゴロが悪いわねぇ。梓様でいいわ」  幻じゃなかった。    という事は……。  「先輩の家ってもしかして……」  「貧乏よ」  「……え?」  「まあ嘘なのだけど、正確には富裕層よりは下。平均的、一般家庭の生活水準、どこにでもある平凡な家よ。それから私はいろいろな人から可愛いとか、綺麗、なんて言われているらしいのだけれど、私は普通だと思っているわ。私が普通という事は、私より可愛い人は可愛い部類の人間で、私より可愛くない人は……ブス、という事になるわ。ちなみに友達はゼロ、何て言うのかしら、あまりお喋りが得意じゃないのよ。あ、それと今後のために教えておくわ。私の属性は……ツンデレよ」  うわっ、家柄以外当たってたよ。というかこんだけ話しておいてお喋りが苦手なわけがない。こんな性格だから友達がいないんじゃないのか? この人絶対性格部門で一位じゃないだろ。 でも……。  「友達なら一人いるじゃないですか」  真っ直ぐ先輩を見て言った。  「何を言ってるのかしら。私がゼロと言ったらゼロなのよ」  坦々と話す先輩は、どこか人を寄せ付けないバリアを纏っている様に見える。  「俺が友達じゃないですか、梓様」  言って俺が悪戯に笑った瞬間、ぼっと顔を赤らめる梓様。  「あ、梓でいいわ……それに敬語も……いらない」  「ありがとうございますっ。それで、俺の悩みの事なんだけど……」  一体どうやって梓は俺の悩みを解決しようとしているのだろう。何か解決策があるのだろうか。  「何を言っているのか全く理解出来ないわね、リンジ。あなたの悩みはもう解決したじゃない」  言葉の通り、本当に俺が何を言っているのか理解していない様子で、腕組みをして俺を見つめる。
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