ベーカリーとらやⅡ

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   配達の荷車を引きながら長閑な街を歩いていると、考え過ぎかなとも思う。あんなに慌てたアタシの姿に、サリはさぞ面食らっただろう。アタシはこの所、ちょっと神経過敏になっている。あのセレニエルの言葉が、引っかかっているせいなのだ。秋の始めに会った海竜の巫女の不吉な言葉―― ――いずれ、奪う者が来る 「ユディア!!」隣の雑貨屋の小僧が、店の方から駆けて来る。「ゴランの奴が、また来てる!」  アタシは荷車を小僧に任せると、店への道を急いだ。  その内来るとは分かっていたが、随分早いおでましだ。ゴランは同じチェルキスの大手のパン屋で、領主の御用達。つまりは商売敵と言うわけ。評判の良い『ベーカリーとらや』を、以前から快く思っていなかった所へ、御用達の話が持ち上がってから、あからさまに嫌がらせをするようになった。夜会の請負をアタシに奪われたのを知って、早速難癖をつけに来たんだろう。  店前には人だかりが出来ていて、入り口あたりにパンが散らばっている。中に飛び込むと、目付きの悪い三人の男と当のゴランが振り向いた。 「これはどういう訳なんだい、ゴラン!」  アタシが目一杯鼻ジワを寄せて睨んだので、奴らは一斉に怯んだ。ベルガの一睨みに堪えられる者は、そうそういない。 「いや……いやユディア。俺達は客として来たんだ。文句を付けたいのはこっちだ」ゴランが根性を奮い立たせ、両腕を広げてアタシの前に進み出た。「聞いたぜ。御用達になって夜会用のパンを請け負うんだってな。祝儀にこちらのチャイ麦パンを買い占めてやろうとしたら、店員が断ると言ったのさ」 「チャイ麦パンは予約制なので、すぐには売れないと言ったのよ!」カウンターの向こうから、売り子のベイネが叫ぶ。「そうしたら、パン屋がパンを売れないとはふざけるなって、暴れ出したの!」   
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