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教室移動の最中、思い切り腕を引っ張られた。
でも、今引っ張っているのはファンクラブの子じゃない。
「ちょ、痛いよ。薫」
「え? 嘘」
渡り廊下でぴたり、と止まる二つの影。
急に手を緩められたかと思うと、薫は私の服の袖を捲った。
白い腕に青く浮かび上がる痣。
なるほど。どうやら、薫はそんなに強く引っ張ってなかったらしい。
痛かったのは、ファンの子につかまれたところが痣になってたからだ。
「なんか、惨めだね私」
私が自嘲染みに言うと
薫はそんなことない! と叫んだ。
それに涙が出そうになる。
でも、泣かない。葱の前でなければ。
「ねえ、本当のことを聞かせて。
志穂。雄矢に告白したなんて嘘でしょう? なんかあったんだね?」
私と薫は、授業を当然のようにサボり、図書室に駆け込んだ。
「私にも、よく分からないの。
雄矢君と接したことなんて、ほとんどないし。だからね。
あっちが私を好きってのは、まずありえないの。
だけど付き合わなきゃ、いじめるとか、脅されて仕方なく…」
重い告白をするようだった。
私がそう言い切ると、薫は意外にも冷静に
貴女がそんな目にあう心当たりは? と聞いてきた。
その冷静さが、話しやすかった。
「雄矢君ね、前、休み時間中に、友達に向かってファンの子が重過ぎる。適当に彼女作っても、その彼女からの愛もまた重い
って言って悩んでたことがあったの
だからじゃないかなあ
付き合っても、私は雄矢君のこと好きにはなれないし」
「でも、それだったら、私もそうよ。私だって雄矢なんか好きにならない!!」
薫は、妙にムキになって言った。
薫が本棚に八つ当たりのように拳をぶつけたせいで、本が数冊落ちた。
窓から差し込む光の中、埃の柱がきらきらと舞う。
図書委員のはずの薫は、本に目もくれず呟いた。
「許せない…
許せないよ。武島雄矢。
ねえ、なんか無理やりされそうになったら、私に電話して。
すぐに駆けつけてあげる。
そういう雰囲気になっても、だよ。
志穂は流されやすいんだから。
痣。保健室に治療しに行こう。
本当に、ごめんね。守ってあげられなくて」
私は少しだけ感動した。
ああ、これが非日常のいいところなんだな、って。
日常じゃあ、友情なんて感じたりしない。
私はどこか暖かい気持ちのまま
この状況を作った雄矢に
ここにきてはじめて些細な感謝をした。
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