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「ご注文はお決まりですか?」
こちらが惚れ惚れとしてしまうような黒くて、ふんわりとしたスカートに、フクザツな模様をほどこした金色の刺繍の胸ポケット、レースの靴下。
そんな征服をまとって、おしぼりを持ったウェイトレスが、いつのまにか、ニコニコと葱の左側に立っていた。
私は、いいなあ。ここで働いて征服着たいなあと思って
ぼーっとする。
すると
「あ、あのお客様」
ウェイトレスは困惑したようにそう呟いた。
一瞬、見てた私を注意したのかと思ったが
違った。
葱がいつまでたっても
おしぼりを受け取らなかったのである。
私は仕方なく二つのおしぼりを貰って、一つを葱の前においてあげた。
葱は、きょろきょろとした後、メニューを開いて、私に微笑みかける。
なににしようか。
私はそんな些細な動作に顔を真っ赤にして
慌てて目に入ったメニューを叫ぶ
「国産豚と野菜の生パスタでっ後ジンジャエール!」
「じゃあ俺は和牛の炭焼きとカシスオレンジで」
弟はさりげなくそういう
「ちょ! あんた未成年でしょ!」
「ちぇー やっぱだめか」
まったく、中学生が何やってんだか。
バイトだって年齢偽ってるわけだし。
変に格好いいせいで、二十歳ですって言い張っちゃえば通るところが弟ながら憎い。
ウェイトレスが去っていったあと
私はぼそりと呟いた
「まあ、私はあなたがお酒のもうと、タバコさえ吸わなきゃ、いいわよ」
葱は私を一瞥した後、おしぼりで顔をふこうとして
親父くさいか、うん と呟いて止めるという、よく分からない動作をしていた。
「で、その教師はその後どうなったの?」
私はふと気になったことを尋ねた。
すると、葱の顔は、さっと暗くなる。
やっぱり怖かったのかもしれない。
見たこともない教師に怒りが沸いた。
「精神鑑定されて、自宅処分だよ。まあ、学校に戻ってくることはないだろうね。
あーあ、次は美人な先生がいいなあ」
「なにいってんのよ」
暗い顔と裏腹に、口調が明るいからつかめない。
私はなんとなく聞き流すふりをして、絶対美人な先生なんかくるな、と机の下で握りこぶしを硬くしていた。
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