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――――――…… 『……あの野郎、俺の獲物を横取りしやがって。』 鏡の中から忌々しそうに鋭い歯をギリギリと鳴らして彼はじっと自分から獲物を奪った人間を睨みつけていた。 篠の身体が後少しで闇に堕ちる、そんな時にまさか篠の名前をあちらで呼ぶ者が来るとは。 人間はこちらに引きずりこんでもすぐにこちらに適応するわけではない。 魔の者と契約し心臓を渡して生きながらに木偶になるか、若しくは肉体か精神が闇に堕ち化け物に身を落とすかしなければ、人間などこちらの世界から簡単に弾き出されてしまう。 元来魔に属する者に遥かに劣る人間という畜生をこちらに入れる事すら烏滸がましい行いなのだ。 しかし、だからこそ愚かな人間で弄び、無理矢理こちら側に堕とす事を暇つぶしや娯楽としたりする変わった者もいる。 魔の者の力に目が眩み、愚かにもこちらの者を呼び出し、身分も弁えずに自分の欲ばかり言う畜生どもを逆に言いくるめて服従させてやるのだ。 人間ほど欲深い生き物はこの世にはいない。故にこちらに引きずりこみ、闇に堕せば大抵、皆醜く知能なんて殆どない姿になる。 その有り様のなんて滑稽で愉快で惨めな事か! 魔の者たちはそれを見て嘲笑し、或いは侮蔑する。 しかし、そんな彼の遊びに思わぬ邪魔が入った。 篠(彼の獲物)を引き摺りこんだ場所で、その名前を呼んだのだ。 そのせいで完全に闇に堕ちていない篠はあちら側に戻ってしまった。  
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