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可愛いという言葉に頭に血がのぼりかけたが魔物、という言葉に思考が止まった。
〝俺が、魔物……?〟
どういう事だ、と尋ねようとするもすぐにまたぐっと体を押さえつけられ、そのまま篠は思考することすらできないほどの快楽に呑まれ、喘ぎ乱れた。
『ほぉ、これはまた面白い物になったな。………になるとは。』
どれだけ経ったか。わからないほど霞んだ意識の中。
不意に聞こえた化け物の声に篠は徐に化け物に目を向け、皮肉のような事を口にしながらも、化け物が目を細め優しく微笑みを浮かべているようにも見える表情をしているのに気付いて目を瞬いた。
『完全な変異にはまだかかりそうだが、まぁいい。時間は無限にあるからな。もう少し…』
もう少しすれば、と言う魔物の声が頭に響いた、その時。
〝……篠ちゃん…〟
「…れ、おん……?」
聞き慣れた声で誰かが自分の名を発し、篠は定まらない焦点を宙に彷徨わせ名前を呼んだその誰かを呼び返した。
名は最も原始的な呪詛の一つだ。
生まれ出でてすぐに与えられる呪詛。
簡単だが悪魔との契約にも用いられることもあるほどその効力は強い。
名前を呼び、相手がそれに返事を返せば繋がりができるのだから。
そうして篠は、怜音の名前を呼んだ瞬間目も開けられないほど強い光に襲われながらあちらからこちらへと呼び戻され、意識を飛ばしたのであった。
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