見捨てられた王サマ

4/5
前へ
/7ページ
次へ
「踊れ、踊れ。はっはっはっ。娘よ。コレは美味な酒だな。なんという名だ?」 狂ったように踊り出す踊り子を横目にクルクセル王は並々と注がれたお酒を飲み干しました。 リオルは何も言いません。 お酒の名を問われた娘は少し迷った後、正直に答えました。 「名は、ありません。」 「ほう。何故だ?それほど珍しい酒なのか?そうだろうな。我の舌にコレほど合うのだから」 「それは国の外れの下水で汲んだ水に普通のお酒を交ぜたものです。」 笑みを消したクルクセル王。 くすり、と馬鹿にしたように王妃が笑いました。 怒りと酔いで顔を赤くしたクルクセル王は無言で少女の仮面に金のグラスを投げつけました。 カタン。パリン。 大理石の上に落下した仮面と金のグラスが割れる音が響きます。 素顔を露わにした娘を見たリオルは何を思ったのか、動き出した兵を止めてしまいました。 にやり、と不適な笑みを零したクルクセル王は己を侮辱した者の顔を見ようと黒く濁った瞳を向けました。 満月のように美しく、長い金髪に宝石のような青い瞳。 純白の膝丈ドレスが夜風に吹かれ、揺れています。 クルクセル王が動きを止めました。 少女────ルリィは隠し持っていた短剣をゆっくりと取り出します。 まるで幽霊を見たように青ざめ、静止したクルクセル王。 目の前のそれに向かってルリィは何の躊躇いなく短剣を振り上げました。 ザシュ。 静まり返った室内に響く音。 それは優雅なものではありませんでした。 大理石に広がる赤い液体、横たわる王妃は息をしていません。 民の為に君臨する王が自らの妻を盾にし、命を繋いでいるのです。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加