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やっぱり……知ってはいたけれど、こう、面と向かって言われると傷つくわね……。
だけど私はポーカーフェイスも乙女のたしなみとして会得しているので顔には出さない。
「名前って失って初めてその大切さを知るのよね。あ、コレ知ってる? 人間が生きる素晴らしきこの世界にはね、名前を持たないモノはないんだよ」
未確認物質、未確認生命体……本当にあるのかわからないモノですら呼び名がある。
正式な名称がないモノでも『あれ』『これ』『それ』『どれ』とそれそのものに呼び名をつけることができる。
でも。
私の呼び名はない。
【赤ずきん】である間は全ての呼び名が【赤ずきん】を示してしまう。
「【赤ずきん】。それは世界の呼び名。大は小をってやつね……私程度の名が世界に逆らえるはずもなく喰われたのよ」
「……話がファンタジー過ぎるね。虚言妄言と切り伏せたくも……実際にあたしゃあんたの名を知らないしねぇ。結局何が言いたいんだい?」
「喰われた名が世界(物語)を歪ませて世界(現実)をねじ曲げる」
「……は?」
お婆ちゃんが何言ってんだコイツと言わんばかりに、まるで可哀想な人でも見るかのような冷たい視線を向けてくる。お婆ちゃんが言えって言ったのに……酷い。
でもこの方がいいかもね。少しは疑問に思っていてくれれば後の説明が楽になるし。
「【赤ずきん】という物語はね、赤ずきんと呼ばれた少女がお婆ちゃんに変装した狼に騙されて食べられる話なの。因みにお婆ちゃんは狼にパックンチョね」
「狼の癖に生意気だな」
「流石私のお婆様……それはいいとして、問題はこの物語が私の名を喰ったことから始まるの。私の名を喰った【赤ずきん】は物語を歪め、【赤ずきん】が私となった。もちろん私が狼に騙されるはずもなく返り討ち……お婆ちゃんも救う形でね」
「確かにあんたなら狼程度……ん? しかしその話……さっきの狼……赤ずきん……まさか……!」
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