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まだ捕まっていてくれればいいのだけれどね……変態―――ゼペット。その名を行商人から聞いた時に物語の断片が見えた。
【長い鼻の人形】の物語が。
「……んん? な、なんだいありゃあ……狼が立っている!?」
っと……来たね。私の物語の鍵が。
鍵を消せば物語は開けない。開かなければ運命がぐにゃりと歪むこともない。
主人公が鍵であったり、そもそも鍵がない等の物語もあるけれど……【赤ずきん】は【狼】がいなければ始まらない。
ヒヒッ……来ると知ってりゃあ能力を使うまでもないよね?
「驚いてるとこ悪いんだけど、ちょっとその人形の口を開けてくれる?」
「……あ、あぁ、任せな」
お婆ちゃんは困惑しながらも一旦人形から目を離してその口をこじ開けた。
人形の口は言ってしまえば糸電話と変わらない。景色を反射する為のチューブは二重丸の様な構造で、その丸と丸の間には多数の糸が通されている。その一本が音を、振動を伝える糸。口を開くことでその振動を外に放出する絡繰りとなっていたり。
つまり盗聴です。覗きと盗聴を一度にクリアする辺り流石変態と言わざるを得ないわ。死ねばいいのに。
そんなことを思っていると、ピエロな狼が喋り始めた。手のひらの上で踊ってることも知らずに……。
『ククッ……すまんな、お婆さん。いや、貴女は悪くないのだ。私怨もない。ただ……貴様の孫が悪いのだよ。あまりにも美味しそうなお嬢さんじゃないか……。とても美しい……この私が食うに値する』
うーわ、ナルシストだこの狼。
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