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パシッ。
乾いた音が響いた。
周りにいた同級生がこちらを見ているのがわかったけど、そんな事どうでもいい。
「酷いな」
苦笑する春を見て、余計にムカムカしたき持ちが込み上げてくる。
だって、もう会うことなんてない、て思ってた。
会いたくない、て思ってた。
理由も言わないで、黙っていなくなった春を嫌いだと、思ってた。
なのに、また会えた事を喜んでる自分がいる。
それが許せない。
春に心を許せばまた傷つくかもしれない。
あんな心にぽっかり穴が開くような気持ちになんて、もうなりたくない。
だから、また会えて嬉しいなんて、思わない。
思わないよ、絶対。
睨むように顔をしかめて、私は春に告げた。
「春なんて大嫌い」
逃げるように教室へ入り、席に着く。
何人かのクラスメイトがこっちを見てたけど、構うもんか。
机に顔を突っ伏して、気持ちを沈めようと何度も深呼吸する。
なんで、こんな時にゆかりも一馬もいないんだろう。
あの二人がいたらこんなに動揺しなかったかもしれない。
ゆかりはきっと泣いちゃうだろうな。
一馬は春を抱き締めちゃってたかもしれない。
そしたら私もつられて、笑って「お帰り」て言えたかもしれない。
はは、無理か。
私の性格上、やっぱりひっぱたいてたな。
でも、ゆかりと一馬が取り成して、また四人で一緒にいられるようになったかも。
全部、妄想だけど。
一人じゃ無理だ。
一人じゃ素直になれない。
「…あず」
上から降ってきた声に、ビクッとした。
なんで、いるの?
放っておいてよ。春の声なんて聞きたくない。
「俺、あずにまた会えて嬉しいよ」
「うるさい。自分の教室行きなよ」
苛々をそのまま春にぶつけた。
「ここ、俺の教室でもあるんだけど?」
………は?
思わず顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべた春と目が合った。
「同じクラスだよ。知らなかった?俺はクラス発表の紙を見た時点で気がついたけど」
「……また一緒?」
「そう。一年よろしく」
先生が教壇に立ったのに気が付いて、春は私の頭にぽん、と手を乗せて自分の席へ戻って行った。
また、同じクラスなんだ。
苛々も残っていた私の心はとても複雑になっていた。
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