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喜んでいる自分がいる。
それは否定できない。
私、また春と仲良くなりたいのかな。
少なくとも春はそれを望んでいる気がする。
とりあえず、何で私に転校する事を言わなかったのか訊こうかな。
で、春の口から友達じゃないから、なんて言われたらどうしよう。
やっぱり訊けないじゃん。
そんなの、怖い。
私は春を友達だと思ってたから、黙っていなくなった春を嫌いになった。
でも、再会してよくわかった。
嫌いになったんじゃない、春を嫌いになりたかったんだ。
私の気持ちと春の気持ちは同じじゃなかったから。
ずるいよね、そんなの。
あげた気持ちだけ返せ、て言ってるんだもんね。
けどね、本音を言えば、やっぱり同じだけ返してほしいよ。
チラッと斜め後ろを見やる。
一列隣、三席後ろに春は座っていて目が合う。
振り向いた瞬間に目が合ったから、私が振りむく前からこちらを見ていたみたい。
私は、パッとすぐに前を向きなおしたけど。
何で見てるの?
前見てよ。
落ち着かないじゃん。
素直ではない私が不快感を顕にする。
先生が話をしているのに、頭に入ってこないよ。
春のせいで。
春が気になって仕方がない。
「以上で、終わりだ。質問はあるか?」
父親と同じ世代の担任がそう言うのを聞いて、私は全く聞いてなかった自分を知る。
友達もいないから、訊きようがない。
自分から話し掛けるとか無理だし。
クラスで話したの、春だけだし。
教壇から担任が降りて教室を出ていく。
途端に周りが騒がしくなった。
元から友達だった子もいれば、自己紹介から始めている子もいる。
何であんな風に話し掛けられるんだろう。
私にはできないなぁ。
なんて思いながら配られたプリントをカバンにしまっていると、前の席の子がくるりと振り返った。
「どこ中?私、島田中学から来た岡本美穂。よろしくね」
私とは全然違う、人懐っこそうな瞳。
例えるならリスみたいな感じ。
短い髪は彼女の躍動感そのままでピッタリで。
とにかく私とは人種が違いそうな彼女に、とりあえず挨拶を返した。
私だって友達が欲しくないわけじゃないもん。
「木下空澄。福田中学だよ、知ってる?」
隣の市だから知らなくても当然。
現に、福中から来たのは私だけだし。
知ってる人なんて誰もいない、そう覚悟して受験に挑んだのだから。
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