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「十和田君もまた明日!今日は早く帰らなきゃいけないから帰るね。
あず、明日色々聞かせてね」
美穂はそういうとバタバタと教室を出ていった。
何ていうか、うん、疾風(はやて)のように去っていく、て感じ。
昔、お祖父ちゃんが歌ってたなぁ。
はっ、それよりも春だ。
「……春?」
そっと呼んでみた。
「やっと思い出した?俺の存在」
「……忘れてないよ。無視してただけ」
「はっ、ひっでーの。あずは冷たくなったな」
「素からだよ。それに嫌いな人と話したくないし」
酷い言葉だと自分でも思う。
けれど、本音だから。
「そーいう言葉はちゃんと顔見て言わないと説得力ないよ」
正面を向いていた私の横にしゃがみ、春は私の顔を両手で挟んで無理矢理横を向かせた。
「どうして言われた俺じゃなくてあずが泣きそうな顔してる?」
「そんな顔してない」
「目を逸らすなよ。……久しぶりに会ったんだから、顔ちゃんと見せて」
……無理です。
顔が赤くなるのがわかる。
こんな至近距離で向き合うなんて、誰とだって恥ずかしい。
「放してよ」
かろうじてそれだけ口にした。
「駄目。あずが俺をひっぱたいた理由言うまで放さない」
ですよねー。
誰だって急に叩かれたらその理由、知りたいよね。
「今度会ったらまずひっぱたこう、て決めてたの」
理由がそれだけだと知った春は何て言うかな。
やられたお返しに叩かれちゃうかな。
それでもいい。
私に関わらないなら。
「ふーん。だったら俺もお返ししていい?」
意外。
昔の春ならもっと突っ込んで理由を知りたがる。
変わったんだなぁ。
春も大人になったんだ。
大人っていうか、レベルが上がった?
春はやられたらやり返すを覚えました、みたいな?
「いいよ」
「では遠慮なく」
振り上げられた手を見やり、私は目をぎゅっと閉じた。
男の子に叩かれるのなんて何年ぶりだろ。
小学三年生だったから、七年ぶり?
以外と落ち着いちゃってる自分もどうかと思うけど、不思議と受け入れてしまう。
きっとこれで春が私に絡んでくるのは終わりだと思うから。
「…………」
中々振り下ろされない手に、業を煮やしてそろりと目を開けた瞬間だった。
「!!!!」
目の前に春の顔。
その瞬間、唇が、春の唇と私の唇が重なった。
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