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何が起こった?
端整な顔が極間近にある。
それはもう近く。毛穴が見えるくらい。
だけど、逆に近すぎて視界がぼやけて見えないんだけどね。
びっくりなんてもんじゃないよ。
心臓が口から飛び出そうなくらい驚いてる。
ようやく焦点が定まり、春の睫毛が確認できるようになる頃、唇は離れた。
温かかった唇が離れ、まだ冷たい空気がより強く感じる。
「はっ、バカ面」
そう笑う春に、はっと我に返った。
「……何で?」
「したかったから」
「…っ」
しれっと答える飄々とした態度に、私は迷う事なく思いっきり春を突き飛ばした。
「っぶねー」
バランスを崩した春が、近くの机に腕をついて身体を支える。
「馬鹿は春だよ!何考えてんの?!」
ガタン、と立ち上がった拍子に椅子が音を立てた。
そして気が付く。
まだ、クラスメイトが何人か残っていた事に。
「――…っ」
固唾をのんでこちらを見ていることに。
「俺、学年代表だよ?一番賢いの。その俺に馬鹿はないな、うん」
何もなかったように春は立ち上がると、歯を見せて春は笑った。
「少なくともあずよりは賢いよ」
誰かこいつの口を塞いでください。
もう、何?
暖簾に腕押し?
ぬかに釘?
豆腐にかすがい?
あと何だっけ。
ああ、石に灸だ。
何言っても無駄。
話が通じない。
打たれ強いなんてもんじゃない。
怒るだけ無駄だ。
私はカバンを持つと教室を飛び出した。
最低、最低、最低、最低。
する?普通、キスなんて!
廊下を走り、靴を替えて校庭を走り抜ける。
「ファーストキスだったのにぃ!」
泣きたい気持ちを抑えて、それだけ口走った。
「マジで?それは、ご馳走様」
「?!」
その言葉と共に腕を捕まれて、校門を抜けてすぐのところで足を止められた。
「まだ何かあるの?」
腕を掴む犯人を睨み付ける。
「あー、逃げるから取り敢えず追い掛けた」
はい?何それ。
「……猫か」
思わず口から零れ出る。
「どうせ家近いんだから一緒に帰ろうよ」
くらり、とした。
何で!嫌いと言った相手と!ファーストキス奪った相手と!
一緒に帰んなきゃならないの?!
「お断…りっ」
ばっと捕まれた腕を振り払い、スタスタと歩きだす。
なのに、この男はめげるという言葉を知らないらしい。
なぜか、黙って隣を歩きだしていた。
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