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駅に着いて改札口を出る。
「家って、前住んでたとこと一緒?」
ふと疑問に思って訊いてみた。
だったら同じ校区だから、結構近い。
「……うん、そう」
?
なんだろ、今の間は?
「あずは朝、何時の電車に乗るんだ?」
急に問うてきたからちょっと、驚いた。
脈絡なさすぎでしょ。
「七時四十分のやつ」
「ふーん、じゃあ俺もその時間にする」
「は?何で?」
「一緒に行くため」
益々意味わかんない。
何で春と一緒に登校?
もう子供じゃないんだし、そんな事する必要を感じない。
「駄目?」
駄目って言うか、断る理由はないけど…、一緒に行く理由もない。
「駄目でも一緒に行くけどね」
なんじゃ、そりゃ。
「春、性格変わりすぎ」
昔の春はこんなに強引じゃなかったもん。
「俺は俺だよ」
穏やかな笑みを浮かべた春の瞳の奧は、とても真剣で、私はきちんと見返す事ができなかった。
「ねぇ、は…」
「あずーっ」
遠くから私の名前を叫ぶ声。
まちがいなく、ゆかりだ。
やめてーっ、恥ずかしいからっ。
て、声に出すのも恥ずかしいくらい、大きな声。
こういう時は他人のふり。
私は、声のする方に背を向けた。
そして、一歩を踏み出す。
「呼んでるのに無視すんの?」
「だって恥ずかしいもん。春、久々でしょ?話でもしたら?」
「………誰?」
「は?ゆかりだよ。公衆の面前ではばからない性格の女の子なんて、ゆかりくらいだよ。忘れちゃったの?」
「……いや、憶えてるよ。平野ゆかりだろ?」
「もう一人、間違いなくいるよ?」
「松本一馬?」
「ちゃんと憶えてたね」
「まーね」
なんて、会話をしていたら、追い付かれてしまったらしい。
がし、と肩を掴まれ、私は驚いて振り返った。
「酷いよ、あず。逃げるなんて」
「だって、恥ずかしいでしょ」
「恥ずかしくないよっ」
頬を膨らませたゆかりに、よしよしして、私は辺りを見渡した。
「一馬は?」
てっきりゆかりと一緒だと思ってたんだけど、一馬はいなかった。
「まだ来てないよ。私が一番だったみたい」
そんなわけない。
私の通う高校が一番遠いんだから。
「ところで、誰?この十和田君のそっくりさん」
怪訝な表情。
そりゃそうでしょうね。
「春だよ」
言った途端、目を真ん丸くして、ゆかりは春を見やる。
「「え…っ?」」
後方からの見事なシンクロ。
振り返れば、ゆかりと同じように驚いた顔の一馬がいた。
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